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コーマワーク(昏睡状態にまつわるワーク)
「コーマワーク」とは、プロセス指向心理学(プロセスワーク)のアプローチの一つで、昏睡状態の方とそのケアをする方を対象にした取り組みのことを指します。プロセスワークでは、言語による働きかけだけでなく、クライエントのプロセスの現れ方に沿って、動作や身体内部の感覚にも働きかける方法も用いることがあります。プロセスワーク創始者のミンデル夫妻が一見意識がないようにみえる臨死状態や昏睡状態の方にもこの原理を応用したところ、体の動きや音で応答してきたり、中には昏睡状態から目覚める人も出るなど、様々な反応が戻ってくることが判りました。また、その後の実践の中から、昏睡状態にある方が様々な形で示す応答の仕方を利用して、イエス/ノーでコミュニケーションをとる方法も編み出されました。 一般に、医学では昏睡状態を日常の覚醒した意識と比較して、「意識や自覚がない状態」「異常で病的」な状態ととらえています。一方、プロセスワークでは、昏睡状態には医学的な処置が必要な現実のレベルに加えて、その奥にある「夢的なレベル」で取り組むことも大切であると考えられています。つまり、「昏睡状態にある人の内部では意味のある大切なプロセスが起きている」と仮定し、そのプロセスの現れ方に丁寧に従いながらサポートしていこうとするのです。たとえば、これはミンデル夫妻が体験した例ですが、白血病の末期で臨死の昏睡状態にある男性が音を出しているので、その音に合わせてこちらも音を出していくうちに、本人が歌を歌い始めました。そのうちにこの男性は昏睡状態から出て、家族や愛する人たちとの未完了の問題を解決して、平和な様子で死を迎えたということです。 コーマワークと一口に言っても、人によって独自のプロセスがあるため、働きかけ方はそのたびに異なります。もちろん上記のような例ばかりではなく、本人の医学的状態によっては反応がほとんどみられないこともまれではありません。また、コーマワークは医療に取って代わるものではなく、むしろ必要な医学的処置を行った後に補助的に行うものです。コーマワークを実践するにあたっては昏睡状態の方への働きかけ方だけでなく、関係者との複雑な関係を調整するスキル、医学や生命倫理に関する基礎知識などが必要となります。コーマワークを実践しようとする方は、必ずトレーニングを積んだプロセスワーカーに相談するようにしてください。 最近では医学の分野でも、「昏睡状態は反応ができないだけで、何かしらの意識の兆候がみられる場合もある」ということを科学的に証明した研究が発表され始めました。プロセス指向心理学のコーマワークも現在研究段階であり、他の関連分野との協力のもとで、これからさらに実践や研究が重ねられていく予定です。(→ 死生学) 昏睡状態の方のケアをするご家族や医療関係者を対象にした講義やトレーニングを行っています。ロールプレイやデモンストレーションを取り入れながら、昏睡状態の方が示す微細なサインを観察したり、昏睡状態への共感を高めることを体験的に学んでいきます。 コーマワークに関する質的研究 私は最近博士論文執筆にあたって、コーマワーク(一見反応がないように思われる方々、昏睡状態、臨死状態の方々とのワーク)をテーマに看護職の方を対象にした質的研究を行いました(Hitomi Sakamoto, 2004, Caregivers' Experience of Process-Oriented Coma Work: A Phenomenological Study)。この研究は、日々昏睡状態の患者さんに接している看護職の方に、昏睡状態の役割を演じながらコーマワークを実際に体験していただき、そこから出た体験をカテゴリー化したものです。その結果、普段看護する側に立つ時とは異なる身体感覚や感情的体験、昏睡状態の方への態度や接し方の変化、自分の死生観に関する変化などがみられました。また、研究に参加してくださった看護職の方からは「看護教育にぜひこのようなロールプレイを含むトレーニングを含めたい」との意見が寄せられました。このように、コーマワークは患者さんに向けて行うだけでなく、昏睡状態の方のケアをする立場にある方や、一般の方への死生教育の一部として役立つものだと考えられます(→死生学)。
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